水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 

10.魔法使いさん -妃彩-



氷雨くんと逢えないまま、
カレンダーの×印が一枚埋まって
新しい一頁を開いた十月初日。

合服の時間が終わって、
施設の人の衣装が半袖から長袖に変わっても
私の生活は、退院したあの日から何一つ変わらない。


退院から一月【ひとつき】が過ぎて、
煩かった暴言を吐きに来ていたスタッフたちの
憂さも晴れてきたのか……それとも、
私自身の心が麻痺を始めているか、
その辺りは正直わからない。

今の私は、特別なことがない限り
ベッドから起きたいと思う事すらなくなっていた。



何かを食べたいとも思えない。
服を着替えたいとさえも思えない。



何もやりたくない
無気力状態って言うのが
今の状態なのかな。



朝、眠りの中不機嫌な声に揺すられて
起こされる時間。


昨日の夜に運ばれてきた夕食は、
無造作にテーブルの上に置かれたまま、
殆ど手を付けることなく、今日も片付けられ
入れ替わりに持ち込まれた朝食。


「あのさぁ、一体何がしたいわけ?

 アナタが食べないと、
 私たちが疑われるでしょ」



そうやって言われる声に、
必死に食べようと口元に運ぶけれど、
口の中にいれても、
食べている感覚はほとんどない。


美味しいとも思わなければ、
食べた直後に、吐き気が強くなって
床や布団に嘔吐してしまう。




そんな時間が
今も流れ続けていた。







ねぇ、氷雨……。



逢いたいよ。
私を助け出してよ。




ねぇ神様。


氷雨に逢うことが叶わないなら
早く、お父さんとお母さんの元に逝かせて。






もう生きることに疲れちゃったよ。






ベッドに横になって、
窓をボーっと眺めながら
声にならない声で念じるように呟く。




< 44 / 140 >

この作品をシェア

pagetop