水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 





「ねぇ、今日もあの子来てたわね。

 居ないって言ってるのに、
 毎日毎日、諦めないわよね」

「ホントよねー。

 なんであんなかっこいい子が、
 あの春宮さんをたずねてくるのかしら?」






ボーっと眺めている私の聴覚を刺激する
キーワードに思わず、
開かずの扉の向こう側を見つめる。




スタッフたちの私語は今も続いていた。



「かっこいいって、だけどあの子、
 この辺で有名なチームの七代目総長って噂よ」

「えぇー、氷雨って族の総長なの?
 ってなんでそんなことアンタが知ってるのよ」

「何?ってだって毎日聞かされるんだもん。

 氷雨の話。

 いやっ、ウチの弟・紅蓮に入ってるのよね。
 んで可愛がって貰ってるみたいで、
 氷雨サン・氷雨サン・氷雨サンって。

 もう凄いわよ」

「暴走族なんて幻滅。
 残念、かっこいいのに今の時代遅れすぎでしょ。

 時代錯誤もいい特攻服とか着て、
 チャラチャラしてるんでしょ

 暴走族なんて騒音たてて、無差別に喧嘩して
 野蛮な不良じゃない」

「って里子、拒絶しすぎでしょ。
 昔なんかあったの?

 でも、残念。
 氷雨は、弟曰く『走り屋』ってらしいよ。

 外から見たら、暴走族に違いないと思うんだけど
 バイクが好きな連中で、主に走るのがメイン。

 まっ、喧嘩売られた時は喧嘩上等で買っちゃうらしいけど
 その辺りの線引きの規律が、先代から徹底されてるとか、
 弟がカツアゲされかけた時に、氷雨に助けられて心酔してるとか」

「って、アンタ。
 族に入ってる弟って割には、カツアゲはないんじゃない?」


四人くらいで話してるその会話に、
私の心が刺激されていく。



氷雨くんが来てくれてるの?


私を探しに毎日。



「けど里子、幻滅って何言ってんのよ。
 紅蓮って言えば、かっこいい人の集合チームよ。
 
 六代目やってた人も、
 クールな感じで素敵だったんだから」

「何?
 やっぱり……アンタそっち好きなの?」

「もうっ。何言ってんのよ。
 そりゃ、もうちょっと若かったらね」

「若かったらって、おばさん発言しないでよ」

「でもなんであの氷雨が、
 春宮さんなんて訪ねてくるのよ?

 絶対、釣り合わないじゃない?
 
 毎日毎日夕方にさ、
 居ないって言ってるにも関わらず来るし。

 まっ、今日も断ることには違いないんだけど、
 目の保養に来ないかしら?」

「ふふっ。
 そうよねー、目の保養は大切だよね」





大きな声で紡がれた氷雨くんの名前。
氷雨くんの話題。



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