水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 




「……嘘……。

 魔法使いさん?

 氷雨君が……助けてくれた……」
 

氷雨くんの顔をゆっくりと掌で触れる。

触れたその掌に、
氷雨くんの手の温もりが伝わった。


「魔法使いは寄せって」


そう言いながら、氷雨くんは私をギュッと抱きしめる腕に
力を込める。


「氷雨、手続きはすべて終わったよ」

ふいに私が居る部屋のドアがもう一度開いて、
姿を見せたのは、私の知らない人。


「安心しろって。

 オレ一人じゃどうにもならんから、
 朔良さんに頼んだ。

 オレが一目置いてる人。

 さっきお前がいってた魔法使いは、
 オレより朔良さんだな」


そう言いながら、
氷雨は朔良さんへと視線を移動した。


「朔良さん?」

「初めまして。
 氷川朔良【ひかわさくら】です。

 さて、今この施設からの退所手続きをとってきました。
 少し移動しますが、宜しいですか?」


膝を折って、私の視線に自らの視線をあわせた氷川さんは
優しい口調でそう告げると、メガネをきゅっとあげながら立ち上がった。



「氷雨、彼女を車へ。
 私は荷造りの手配だけして車に向かいます」

「わかりました。
 朔良さん、後はお願いします。

 んじゃ、妃彩移動するぞ。
 しっかり捕まってろよ。

 こんなに軽くなりやがって。
 夏より、軽いだろう今」



ふいうちをつかれるように言われた言葉に、
思わず氷雨くんを、ポカポカと照れ隠しに叩きたくなる。



やっぱり体重のこととか言われると……
反抗したくなるのは、相手が氷雨くんだからなのかな。


「首に両手回して、落ちるなよ」

「うん」


ゆっくりと両手を氷雨くんの首に絡める。



夢じゃないよね?


ううん、別に夢でもいい。

夢でもいいけど、
夢じゃないと思えたらもっと嬉しい。




「さっ、後の処置は所長に任せておいた。
 行こうか氷雨。春宮さん」


そう言って先を歩きだした朔良さんに、
この施設の責任者の人はペコペコお辞儀しながら
見送り体制。





久しぶりの外。



施設の玄関前に横付けされたのは、
大きくて長い真っ白な車。




「どうぞ」




専属の運転手なんかも居るみたいで、
その人にドアを開けて貰って
氷雨くんと一緒に乗り込む。

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