水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


確か……。


少しでも長く、妃彩との時間を共有したくて
携帯のメールを遡って確認する。




そこには今日の日付で、
花火大会と記されていた
有政からのメール。



「妃彩、花火見るか?」



問いかけた妃彩は、
目を見開いてまた嬉しそうに笑った。



会場へ向かう途中、
街頭で介助犬のボランティアたちが
募金をしていた。




車椅子の妃彩を見つけてか、
お座りして大人しくしていた
ラブラドールが妃彩の方へと近づいてくる。


妃彩は近づいてきた犬を
ギュっと抱きしめた。




「介助犬に興味はおありですか?
 
 介助犬は、無償で貸与されています。

 気になることがあれば、
 どうぞ訪ねて来てくださいね。

 この子はまだ見習い期間中の介助犬候補の
 水晶(みずあき)号です。

 順調にいけば、来年には
 介助犬としてデビューする予定なんですよ」



そうやって説明された、水晶を
妃彩はじっと見つけながら、
ボランティアの言葉を聞いていた。



介助犬かっ……。



あの場所に居る限り、
黒服野郎がアイツの世話をしてるから
心配はないかも知れない。


だけど何時かは……
オレがアイツと一緒に生活する。


その時、やっぱり……
介助犬ってヤツが傍にいてくれたら、
妃彩も安心なのかなーなんて
少し考えながら、その時を過ごしていた。




「氷雨」



ふいに聴きなれた声が聴こえて、
オレの方に近づいてくる。



「由貴……。
 何、兄貴らも来てるの?」

「クラスの子に誘われたからね。
ても今は、他校の女の子たちに囲まれてるよ。
 私は暫く退散中。

 氷雨……この子……」
「あぁ、そうだよ。
 
 妃彩、コイツ……氷室由貴。
 兄貴の親友兼、オレの幼馴染」


そうやって紹介すると、
由貴は不満げにオレに微笑みかけて
妃彩へと向き直った。



「一度、入院先の病院で私は知ってるんだけど
 話すのは初めてだね。

 氷雨の事は小さい頃から、今日に至るまで
 何でも知ってるから、知りたいことがあったら
 何時でも聞いてくるといいよ」

「って、由貴。何、吹き込んでだよ」



なんて珍しく声を荒げながら過ごす時間。



「由貴、少しだけコイツの傍に居てよ。
 すぐに戻るから」


妃彩を由貴に預けて、
オレは商店街に
目をつけていたジュエリーSHOPに飛び込む。


そこで見つけた、
四葉のクローバーのペンダントが入った
小さな箱をポケットに突っこんで
アイツが待つ場所へと向かった。


再び二人の時間に戻ったオレたち。



人が集まる場所に、
車椅子はやっぱり不釣り合いで
それでも車椅子は、
妃彩にとっては大切な移動手段で。




この楽しい時間に、
アイツが不快にならないように、
寂しさを感じないように
必死だった。

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