水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 

15.氷雨の彼女 - 由貴 -



10月の体育祭が終わって数日が過ぎたある日、
クラスの中村が、
私たちに花火大会の話を持ち込んできた。


「だからさ、時雨・飛翔頼むよ。
 俺、彼女のリクエストに答えてやりたいんだよ」


生徒会室で、
作業を黙々とこなし続ける時雨と飛翔。

その近くで、騒ぎ続ける中村君。



「由貴、後それに目を通して
 計算違いがないか確認してくれ」


時雨に手渡されたファイリングされた資料に
目を通しながら、私は中村君を観察していた。



「中村、今回だけだぞ。
 ここのかわり、仕事手伝え。

 これが終わらないと、花火には行けない」


ほぼ脅しのようにもとれる駆け引きに、
中村君も覚悟を決めたように、
椅子に座って、分厚いファイルに目を通し始めた。



っと言っても、中村君が確認しているのは
書く部活動とかからあがってくる、要望書。


毎月、沢山届けられる要望の中から
一番必要なものを、会長と副会長の目に通す重要な役割。



「あぁ、野球部がグランドの設備費用援助。
 サッカー部が、夜間照明のリクエストだろ。

 そうだよなー、サッカー部と野球部が
 同じグランドで練習ってことに問題があるんだよな」


ブツブツと、各部員サイドに寄り添いながら
全ての要望が、会長と副会長の目に触れる
ケースへと片付けられていく中村君の仕分け。


「おいっ、寄越せ」


不機嫌そうに立ち上がった飛翔は、
無言でケースに仕分けされた要望書に目を通すと
殆どを破棄の方へと戻していく。



「飛翔、お前なんて非道なんだよ。
 もっと現場に寄り添ってやれよ」

「んなもん、限りある予算で運営してんだ。
 成績・実績残せないところに避ける予算はねぇ。
 中村もこいつらに言っておけ。

 くだらん要望は紙の無駄遣いだってな」


そう言って、最終的には一枚だけを残して
殆どをシュレッダーへとかける飛翔。


「こっちは終わったぞ。時雨。

 由貴、お前は?」


飛翔に言われたと同時に、確認し終えたファイルをパタリと閉じると
「終わりました」っと飛翔へと手渡した。

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