水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 



騒然とした現場。




意識を失ったまま、
ピクリとも動かない少女。




マジかよ。





少女を片手で支えて、
ポケットから携帯を取り出すと、
親父の携帯へと発信させる。




「氷雨、どうした?」

「悪い。親父。

 バイト先に行く途中に、
 事故に巻き込まれた。
 
 ちょっと、警察寄越してくんない?
 後、救急車一台かな」


本来は110番にかけるのが鉄則なんだろうけど、
この時のオレは、何故か真っ先に
警察官でもある親父に連絡するのに必死だった。


場所を伝えて、
慌てて電話を切る。



外野が、ざわざわとざわつきはじめ、
行き交う人が足を止めて、覗き込んでいく。



「をいっ。
 見せもんじゃねぇっ!!」


興味本位で群がりはするものの、
何一つ動く気配のないやつらを
一喝して怒鳴り散らすと、
腕の中の少女の体を揺すりながら声をかける。



おいっ。


お前、どうしたんだよ。



オレの腕の中で、
息絶えるとか、やめてくれよ。


そんなことを思いながら、何度目かの声をかけたとき、
ゆっくりとその瞼が開いた。





「無理すんなって。

 ったく、むちゃしやがって。
 オレの相棒どうしてくれんだよ」




必死に体を起こそうともがく
そいつに、声をかける。


その声に、我に返ったように
今の状況を飲み込む少女。



少女の体が震えるのを感じた。



「オレは金城氷雨(かねしろ ひさめ)。
 お前、名前は?」

「妃彩……。
 春宮妃彩」




少女は名前だけ告げると、
またゆっくりとその瞼を閉じた。





近づいてくる警察車両と、
救急車のサイレンの音。

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