水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


最初の進路相談の日。

教師の前でそれを告げた途端に、
母さんはヒステリックに叫び
それ以来、進路の話題になると口も聞きやしない。



目指す夢を片親に反対されて
それ以外の適当な進路にすすむなんて道も
目的がないオレにはないわけで
兄貴たちが必死に受験の追い込みを始めるこの時期も
オレは、バイトに明け暮れていた。




ダイニングで
母さんが作った朝食をペロリと平らげると
特に会話もしないまま、
ヘルメットを持って家を出る。


対面する車庫を開けて
相棒の鼓動を感じる。



夢を奪われたオレが
今夢中になれるものはこれしかないから。


相棒(バイク)の改造費を稼ぐ。


かといって、まともなルートで改造費を支払って
相棒をカスタムしようと言っても、
金額は洒落にならない。


そんなわけで、俺は所属する走り屋仲間の先輩たちが
やってるバイク屋に相棒を持ち込んでは、
出てきた中古部品を低予算で買い取っては、
カスタム費用に充てていた。


相棒を愛するにも金は必要で、
バイトに勤しむため、風を切りながら通勤する。



今日はいつもより早めに家を出たから
バイトの時間まで、
少し流しながら行けるだろう。


そう思って、いつもと違う道に入って
遠回りで職場を目指した。



気持ちよく風を感じながら
加速していくバイクを操る
オレの視界に移るのは、
大型トラックに向けて、突進してくる
女の子が操る車椅子。



思わず、自分の目を疑った光景が飛び込んでくる中、
加速する車椅子は止まる気配すらない。




ちくしょー。



相棒を犠牲にするには忍びないが、
トラックの方へとバイクの方向を向けて
オレ自身は、少女の車椅子が近づく
坂道の方へと体を反転させて飛び退く。



綺麗な受け身体制のままで、
着地を成功させると、
その車椅子の方へと向かった。


車椅子は道路の上の小さな障害物。

石ころを跳ねて、
体制を崩し、その瞬間、少女の体は
トラックの方に向かって投げ出される。



慌てて少女を追いかけるように、
走って、抱きとめた体は、
やせ細って軽かった。


オレの相棒が、
トラックに体を張る音。

クラクションの音が聴こえて、

車椅子が、
ぐしゃっと潰れる衝撃音が
耳に残った。

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