水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 



自宅では小母さんと時雨。

学校では、
担任と進路指導部との話し合い。



放送で氷雨が呼び出されるたびに、
私も気になって、その部屋へと走って行く。


進路指導部から出てきた氷雨を部屋の前で迎えると、
「何しに来たんだよ」なんて、
氷雨は照れ隠しに、キツイ口調で切り出す。



「気になったから来ただけですよ。
 私は氷雨の夢が羨ましいです。
 
 時雨や小母さんの反対は厳しいと思いますが、
 警察になる夢、応援してます。

 ただし、あの車椅子の春宮さんを悲しませないように
 してあげてくださいね」



わざと春宮さんの名前を借りて言葉を続ける。
 


「サンキュー。
 由貴も反対派だと思ってた。

 進路指導部の赤松もわかってくれた。
 今度、おふくろ学校に連れてこいってさ。
 
 説得、手伝うって言ってくれたから」



そう言うと氷雨は姿を見せた金髪の少年たちの方へと
走って行った。



放課後、私は久しぶりにバイト前に
例の教会へと足を運んだ。



倍音の音色が、教会内に響く神秘的な時間。



その場所に踏み込んで、
その音色に包まれるように、身を委ねる。




倍音ヒーリングに出逢って三ヶ月。

ようやく私自身も、そのメロディーにあわせて
声をのせられるようになっていた。


10分くらい、声を出し続けていると
いつもと同じように、勇人君が姿を見せる。


「こんにちは。久しぶりだね」

「文化祭が大変だったから。
 勇人君は、学院祭は?」

「僕たちもこの間、終わったよ。
 11月1・2・3日の三日間だったから」

「そっちは三日間なんだ。
 私たちは二日間でした。

 文化祭が終わったら一気に、受験モードで少し息抜き」


そんな風に会話を切りだすと、
勇人君は私の隣に、ゆっくりと座った。


「まだ進路に悩んでるの?」

「……悩んでるって言うか、進路は今も医大のままだよ。
進路変更する勇気もない。

 だけど……どうして、医大に行きたいのかもわからなくて」



やっぱり……この教会の中では、
なかなか言い出せない素直な感情を吐き出せる貴重な場所で。


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