水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


「僕はね、今、引き取って育てて貰っている父が医者だから。

 医学に関わる仕事を選ばなきゃいけないって、
 そんな風に最初は思ってた。

 だけど今は……もっともっと、心の勉強をしていきたいと思ってる。
 リズママの倍音ヒーリングは、脳神経学とかにも繋がってるみたいで
 そう言う、先生たちの話を聞いていたら、今の僕が自分自身とも向き合うために
 やっていけることもあるんじゃないかなって思った。

 本当にやりたいことって言う理由づけは、今じゃなくてもいんじゃないかな。

 今は必死に受験だけに打ち込んで、
 入学出来てから、本当にやりたい理由を見つけてもいんじゃないかなって」


そうやって本音を聞かせてくれる、
この場所で出逢った友達は、ただ微笑みかけてくれる。


「それでもいいのかな?」


不安げに聞き直した私に彼はゆっくりと頷いた。


私の中で、医大に通うと言う夢がもう少し近づいたその日、
少しだけ……金城の小母さんの不安な心を
支えられる勉強が出来たらと思えた。
 


その数日後、今まで真面目に通い続けていた
氷雨がピタリと学校に来なくなった。



それだけじゃなく、家にも帰ってこない。





心配する私と裏腹に小母さんと時雨は、
氷雨の素行の悪さを文句ばかり言ってたけど、
私は……氷雨が何かトラブルに巻き込まれているような気がして
胸騒ぎがしてた。



定期的に氷雨の電話に連絡するものの、
繋がる気配はない。



氷雨を心配した春宮さんが、
途中、浅間の校門前まで顔を出すほど
氷雨は、彼女にすら連絡が出来ていないようだった。

そんな氷雨から電話が入ったのが、
氷雨が無断で学校を休んで4日ほどした頃。



「もしもし、氷雨?
 今、何処にいるの?」

「悪い由貴。

 ちょっと野暮用で、暫くは帰れない。
 学校も適当に理由つけて、担任にいっといて。

 用事が終わったらオレも帰るから。
 
 んでこっちは、由貴にしか頼めない。
 桜ノ宮サナトリウム」

「桜ノ宮サナトリウム?」

「そう、あの場所に妃彩が居る。

 暫く、妃彩のところにも顔出せないから、 
 由貴が顔出してやって。

 んじゃ」



一方的に用件を伝えると、
そのまま氷雨の電話は途切れた。





< 92 / 140 >

この作品をシェア

pagetop