甘く焦らして追いつめて
「誰よりも大事にしてるはずのお前の体調、俺が崩してしまったことを心底後悔してる」

 心臓が、ズキンと痛くなる。

「じゃ、帰るな」

「えっあっ、ちょっと待って!! 待ってって!!」

 私は駆け引きもせずに、目の前にあった先生の腕をがむしゃらに掴んだ。

 仕事の話なんか最初っからどうでもいい。私が言いたいのは、もっと、恋人みたいにいちゃいちゃして……。

「もっと、……あの……、…………」

 先生はベッドの上の私を見降ろし、すっと肩を掴んで支えると自らの顔を近づけてきた。

 が、私はまだ言いたいことが半分も言えていなかったので、思わず顔をふいっと逸らす。

「何でよけるわけ?」

「だってさっき! 私が抱き着こうとしたら、よけたじゃん! お菓子差し出して。私は会った瞬間から抱き着きたかったのに、何で仕事の話から始まって……」

「あぁ……」

「あぁって……」

 先生は更に両腕を伸ばし、ベッドに膝を乗せて抱きしめてくる。

「荷物持ったまま抱きしめるなんて、片手間みたいだろ」

「…………」

 先生は、肉の感触を確かめるように薄いパジャマの上から指一本一本に力を入れてくる。

「こうやって、柔らかいな、温かいなと感じたいだろ?」

 私は顎の下から見上げて言った。

「それは、そうだけど……」

 ちょっと納得いかない。

「抱きしめているだけで、気持ちがいい」

 先生の顔はよく見えないけど、気持ちはちゃんと通じる。

スーツの上等な生地を頬に感じながら、首に手を回して、ようやく唇にキスをする。

「今日会えないかもと思ってた。まあ慣れっこだけど。予定通りにいかないことなんていつものことだし」

 しっかり目を見て、爽やかに笑いかけてみせる。

 先生は少し身体を離してマジマジと顔を見つめてきた。

「会いたいのに、会えないことに、慣れてきちゃったね……」

 目は伏せたけど、口角だけはなんとか上げていようと努力したのに。

先生は突然肩を掴み、後頭部に手を添えながら押し倒してくる。

「体調悪いの知ってたから、今日は最初からセーブしてたんだけど」

 左手首はベッドに押しつけられ、再び肩口も大きな手で押さえつけられた。

「俺も会いたかったっていう想いを、ぶつけてもいい?」

 堂々と、瞳を見つめて聞いてくる。

「…………先生、会いたかったの?……」

 まだ返事をしていないのに、先生は既にパジャマのボタンに手をかけている。

「……電話、ずっと待ってた……」

 待ってたのはこっちなのに……。想っていたことは、お互い同じだったんだ。

ただ嬉しくて、苦笑しながらも2週間ぶりに肌を這う指先に、すぐに身体が反応し始める。

「久しぶりで、なんか……恥ずかし……」

 のしかかろうとする大きなスーツから身を捩じって身体を隠し、目を閉じる。

「頬どころか、胸の先まで赤くなってる」

 そう言いながら、先生は露わになった首筋にキツク吸い付いてくる。

「…………ッ!!」

 見える場所に堂々とキスマークをつけられていく。先生は、私に反論する間を与えないように、二度、三度と素早く場所を変えながら痕を残していく。

「……ぁ……やぁ……見えるッ!!」

耳をひと舐めされただけで、身が縮こまってしまう。

「見えても大丈夫。僕が許す」

 無責任とも言える言葉を降り注ぎながら、震える身体を背後から抱きしめ、赤く染まる耳に唇を押しつけてくる。

「んぅ……」

 私は、次の刺激に耐えるために、ぎゅっと目を瞑った。

 舌をすぼめて穴にねじ込められると、身体を抱きしめられているのにも関わらず、ビクン、ビクンと震える。

「随分感じてるみたいだけど? ……あぁ、そっか。体調悪くて自分でもできなかったんだね」

 低い声で微笑される。舌を少し動かしただけで、耳の中にピチャという音が張り付くように響いてくる。

「み……耳元ぉ……でッ……」

「んー? 聞いてるんだけどー?」

 シーツに反対側の耳を擦りつけるように逃れる私の頭を優しく押さえ込み、先生は執拗に攻め立ててくる。

 そうされると、シーツを掴んで力一杯握っていた手が緩み、息を吸って吐くことだけで精一杯、頭は何も考えられなくなる。

「2週間、長かったねぇ。耐えられなかったのなら、今度からテレフォンセックスなんて、どうだろう?」

 そんな恥ずかしいこと、できるわけがない。

「無……理……ッ」

「あれー?」

 耳たぶを、甘噛みされ、一時甘い攻めから解放される。

「拒否するんだ」

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