陽だまりに猫



これで、終了。
…なんて都合よくいくはずもなくて。


『南波ー?ほら、早く』


担任の急かす声に嫌々席を立つ。


一番後ろの席なので、前の席の人全員が
振り向いてこっちを見ていた。



「南波 悠です。よろしくお願いします」


簡潔にそれだけ言って席に座る。


その行動にざわざわと騒ぐクラスメート。
先生も少し慌てながら


『な、南波、もう少し何かないのか?』

「何かってなんですか?」

『ほら、趣味とか特技とか…色々』

「名前だけじゃダメですか?」


名前さえ言えば普通いいものでしょ?
それ以外に必要なことってある?

そんな眸で先生を見れば


『じゃ、じゃあ次いくか…次は…』


よかった、終わったみたい。
ほっと胸を撫で下ろす。


さっきまで後ろを向いていたみんなの
視線は先生の声によって次の人に
向けられていた。


なのに


「っ…?」


ひとりだけ、今だ後ろを向いて私を見る
男の子と眸が合った。


ふっと笑ったその人は、そのまま
陽に透けた猫っ毛の髪をふわふわと
揺らしながら前を向いた。


…な、何。今の。




その日一日、あの微笑みが頭にちらついて
離れなかったのはなぜか。



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