とっておきの恋
安部くんは出て行った。

それっきり何も言わず、黙ったまま。

あたしは一人、教室に残された。




言いようのない後悔に押しつぶされそうだった。



あたし悔しかったの。

二人の関係にやきもちを妬いていたの。

だから、意地悪をしたくなったの。

ただ、それだけなの。




安部くんが見せた怒りは、カオリンを守るためのもの。

あたしは気づいてしまった。

安部くんはカオリンを大切に思っている。

きっとあたしなんか比べ物にならないくらいに。



安部くんのいちばん大切なカオリンに、あんなひどいこと言ってしまったあたしは、この瞬間から、安部くんの憎むべき対象に変わってしまった。



もう、戻れない。
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