モノクロ
 

「ほら、佐々木さん。本もここにあるから着けてみて」

「あっ、そうですね!」


もたもたしながら佐山さんから差し出された本にブックカバーをつける。

少し厚めの文庫本だけど、ブックカバーは表紙側に本の表紙をはめ、裏表紙側はサイズに合わせて折り返すタイプになっており、ある程度の本の厚みでも調節できるようになっている。

そのため、読む時も本が歪んだりブックカバーが緩くなることはなく、本を読みやすいような作りになっている。

ブックカバーを本に着けた時の見た目、上部につけられているイラストの中の毛糸の色と合わせられた茜色のしおり、本を持った感覚、そして本を捲った感覚。

どれもこれも予想以上のものだった。


「……あーもう、我慢できない! 僕も見ていいですか!?」

「うずうずしてるのはみんな同じだな。みんなも手に取ってみよう」

「わぁ、この花柄、すごくかわいい! データで見るよりも雰囲気がすごく素敵!」

「これはプリントしたらパリッとした質感が崩れる不安があったけど、うん。デザインそのままでスタイリッシュでいいな」

「オレ、この日のために本買ってきたんです! これを機に小説読んでみようと思って! オレ、このおもしろブックカバーに目をつけてたんですけど……うん、ピッタリだ!」


緊張感のあったオフィス内が一気に賑やかになる。

……みんな、笑顔だ。

 
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