殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
陽子は次第に冷たくなっていく翔の体を抱き締めながら、それでもまだ翼の声を聞こうとしていた。
それでも翼の死を現実視する自分に気付く。
その度に頭を振る陽子だった。
「陽子ー!」
やっと節子がたどり着く。
「あんたが殺ったの?」
節子は、いの一番にそう言った。
もっと気の利いたことを言いたかったのに。
陽子に抱かれて冷たくなっている翔を見て思わず言ってしまったのだった。
陽子は首を振った。
「殺ったのは翼」
陽子の言葉に節子は首を傾げた。
周りを見ても、翼の姿は何処にもなかった。
翼と翔が双子だと知っていたから出た行動だった。
「翼は翔さんの体の中に住んでいたの」
「何言ってるの。私にも分かるように説明して」
節子は翔を抱いて泣いている陽子の背中から、陽子を抱き締めた。
「純子姉さんから聞いているでしょう? 行方不明の香さんのこと。実は薫さんが香さんで翔さんのお母さんだったの」
「えっ、それじゃあ翼さんは?」
「翼の方が本物の薫さんの子供だったみたい。だから愛されなかったの!!」
陽子は辛そうに吐き捨てた。
ようやく落ち着きを取り戻した陽子は重い口を開き、真実を語り始めた。
孝と薫として生きた香を殺したのは、翔の身体に憑依した翼だった。
合格祝いの宴会の日。
前日から秩父のホテルに宿泊させていた摩耶を爆睡させるために、翔の隙を狙い睡眠薬を飲ませていたのだった。
その後で翼となった翔は、日高家に早朝忍び込んだのだった。
翔はまだ、翼が身体を乗っ取っていることを意識していなかったのだ。
いや、薄々は感付いていたのだ。
だけど、それほどまでに支配されているとは思ってもいなかったのだ。
『親父! いい加減にしろよ!』
陽子が襲われたあの日。一瞬翔に戻って、ベッドで眠っている陽子を見て言った。
背後に感じたのは翔ではない。薫だったのだ。
翔と薫が二階へ上がって来た思ったのだった。
孝がコーヒーを入れる時、水に拘っているのは知っていた。
いつも今宮神社から汲んでくる龍神水。
あのペットボトルの中に、医師から貰った睡眠薬を崩した作った水溶液を大量に入れておいた。
それは沈殿物で疑われないために濾した物だった。
それでも翼の死を現実視する自分に気付く。
その度に頭を振る陽子だった。
「陽子ー!」
やっと節子がたどり着く。
「あんたが殺ったの?」
節子は、いの一番にそう言った。
もっと気の利いたことを言いたかったのに。
陽子に抱かれて冷たくなっている翔を見て思わず言ってしまったのだった。
陽子は首を振った。
「殺ったのは翼」
陽子の言葉に節子は首を傾げた。
周りを見ても、翼の姿は何処にもなかった。
翼と翔が双子だと知っていたから出た行動だった。
「翼は翔さんの体の中に住んでいたの」
「何言ってるの。私にも分かるように説明して」
節子は翔を抱いて泣いている陽子の背中から、陽子を抱き締めた。
「純子姉さんから聞いているでしょう? 行方不明の香さんのこと。実は薫さんが香さんで翔さんのお母さんだったの」
「えっ、それじゃあ翼さんは?」
「翼の方が本物の薫さんの子供だったみたい。だから愛されなかったの!!」
陽子は辛そうに吐き捨てた。
ようやく落ち着きを取り戻した陽子は重い口を開き、真実を語り始めた。
孝と薫として生きた香を殺したのは、翔の身体に憑依した翼だった。
合格祝いの宴会の日。
前日から秩父のホテルに宿泊させていた摩耶を爆睡させるために、翔の隙を狙い睡眠薬を飲ませていたのだった。
その後で翼となった翔は、日高家に早朝忍び込んだのだった。
翔はまだ、翼が身体を乗っ取っていることを意識していなかったのだ。
いや、薄々は感付いていたのだ。
だけど、それほどまでに支配されているとは思ってもいなかったのだ。
『親父! いい加減にしろよ!』
陽子が襲われたあの日。一瞬翔に戻って、ベッドで眠っている陽子を見て言った。
背後に感じたのは翔ではない。薫だったのだ。
翔と薫が二階へ上がって来た思ったのだった。
孝がコーヒーを入れる時、水に拘っているのは知っていた。
いつも今宮神社から汲んでくる龍神水。
あのペットボトルの中に、医師から貰った睡眠薬を崩した作った水溶液を大量に入れておいた。
それは沈殿物で疑われないために濾した物だった。