こっち向いて、早瀬先生。
「やっぱり、今日は具合悪いんで
帰りますね。お疲れ様でした」
足下にあったカバンを掴んで立ち上がる。
すると即座に先生に手首をつかまれた。
「大丈夫か?送ってく?」
わたしの目の前にはいつもみたいに
ニコニコした先生はいなくて。
真剣な瞳をした
先生が、いた。
目をそらそうとしても
先生の眼差しが
わたしを捉えて離さない。
だめだよ…先生、綾花いるのに…
「ひとりで大丈夫ですから」
やっと喉の奥から絞りだした
冷たい声で言い放つと
先生の腕を無理やり振り払い
逃げるように、生徒会室をあとにした。
帰り道、わたしの頭には
腕を振り払ったときの
先生の悲しそうに揺れた瞳が
こびりついて、離れてくれなかった。