誰も動けなかった。

翔織は、俯せに倒れたまま、ぴくりとも動かない。

カッターで、人を殺す事が出来るんだろうか。

その時、赤い血が、アスファルトに段々 広がっているのに気付いた。

その血の出ている所は――首だった。

首を、カッターで切られた。

それが何を意味するのか理解して、私は その場に膝を付いた。

舞ちゃんも葵ちゃんも、動けずにいる。

そんな中、曽根倉君だけが、私達に走り寄った。

「椎名!!」

何度も翔織の名を呼んで、彼の躰を持ち上げて。

反応が無い事を確認すると、曽根倉君は直ぐに自身のスマホをポケットから取り出した。

「警察に電話するぞ!!」

今迄 見た事が無いくらい恐ろしい形相で、曽根倉君が祐貴さんに怒鳴る。

すると祐貴さんは、カッターを投げ捨てて、逃げて行った。

曽根倉君は直ぐにスマホを操作する。

救急車を呼んでいるようだったが、私の頭は何処か ぼんやりと霞んでいた。

翔織の鎖骨辺りから血が流れ続けている。

このままだと、私が愛した、私を愛してくれた人が、死んでしまう。

何か しなきゃ。

解っているのに、何も出来ない。

私は只、翔織の冷たい左手を、握り締めた。

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