救急車を呼び終えた曽根倉君は、ポケットからハンカチを取り出すと、翔織の傷を押さえ付けた。

しかしハンカチには、みるみる血が染み込んで行く。

「椎名!おい、死ぬなよ!?」

曽根倉君が必死に翔織に話し掛けるが、その声は震えている。

その時、私達の周りに人集りが出来始めている事に気付いた。

ざわざわと騒がしい その中で、何人かの若者がスマホを操作している。

「ちょっと!見世物じゃないよ!!」

気付いた舞ちゃんが鋭く叫ぶ。

「人の命が関わってんのに、インターネットにでも載せるつもり!?」

葵ちゃんに睨まれた若者達は、不機嫌な顔を しつつもスマホを しまった。

「……翔織……。」

私が小さく名前を呼ぶと。

翔織の瞳が、僅かに開いた。

「翔織!」

私が涙を浮かべて、握っていた手に力を込めると。

彼は、私に微笑み掛けてくれた。

その口の脇から、ごぽっと血が溢れる。

「……と……し、き……。」

「……じょ…ぶ………し…な…。」

途切れ途切れの声。

でも、私には解る。

――大丈夫だ、死なない。

「……当たり……前だよ……。」

私は涙を止める事が出来なかったけれど、無理矢理 笑顔を作った。

「こんなとこで死んじゃったら、許さないから。」

そう言うと、翔織は安心したように笑って。

彼は静かに。





目を閉じた――。






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