溺愛トレード


 クラウンのこの王冠マーク。いくら私が庶民だからって、この王冠マークは知っている。

 北海道から沖縄まで、全国各地に店舗があるデパートだ。


 しかもクラウングループは国内外に数百社ともいわれる企業を傘下におさめている国内最大手流通企業。

 クラウンの店内には、三桁未満の商品は存在しない。小銭いらずで買い物ができてしまうという、末恐ろしいデパートだ。

 そういえば……そこの創業者の名前も瀧澤だった。


 ってことは、この瀧澤豊さんは、クラウングループ創業者一族の御曹司。超大金持ち。超スーパーお坊ちゃま。

 そんな人に、私みたいな女を差し出すなっての…………


「アン・カイエの文房具は、うちの会社でも取り扱いさせていただいてます。僕もノートを使わせていただきましたが、とても使いやすい」


 ああ、御曹司様は気づかいが上手い。

 本当は今すぐこの場から立ち去ってしまいたいだろうに、私に愛想笑いまでしてくれている。


「ありがとうございます。あの、実乃璃のことなら心配いらないと思います。立ち話もなんですから、私たちも帰りましょうか」


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