溺愛トレード


 そして今夜、実乃璃は「親友の文ちゃんに、大切な話があるの」と、いつになく真剣な声で電話してきた。

 しかも、私は文ちゃんなんて名前じゃない。私が文房具メーカーに勤めてるから「文ちゃん」なのだ。

 実乃璃様が一度言い始めたら私は、文ちゃん、だ。

 携帯のディスプレイに「実乃璃」という文字が浮かび上がるだけで、「めんどくさい」と五回に四回は電源を切る私だけど、何故か今日は電話に出てしまった五回に一回の奇跡の日である。


「実乃璃ちゃん、遅いね?」

「どうせ、履いていく靴に悩んだの、って理由で遅刻よ」

 実乃璃が指定してきたのは、都内の超高級ホテルのラウンジだ。

 今夜は彼氏の徹平とデートの約束をしていた。デートと言っても、パチンコ帰りの徹平と待ち合わせしてラーメン食べて、どっちかの部屋で映画を見るというお決まりのデートの約束だったから、「実乃璃様からの呼び出しなんだけど」と徹平に頭を下げて予定を変更し一緒に付いて来てもらった。


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