溺愛トレード

 リムジンは、クラウンの本店の正面玄関に横付けされた。


「いらっしゃいませ、副社長」とずらりと並んだ販売員たちに「ご苦労様」と労いのお言葉をかけた副社長様は右手をさりげなく私の肩に置いてエスコートする。


 こ……ここが、世界中のセレブを魅力してやまないデパートメントストアーってやつか…………


 まず圧巻なのは、吹き抜けの天井からぶら下がるシャンデリア。そして、総大理石の真っ白な床。


 その床に刻み込まれた王冠マーク。


 ごくりと喉を鳴らす。


 ゴム底のパンプスで、真っ白な床を踏むのすら申し訳ない気分。瀧澤さんは気にすることなく、突き進むと格子付きの重厚感あるヨーロピアンなエレベーターに乗り込んだ。


 行き先は告げずとも、扉が閉まる。

 しかも、今時珍しいエレベーターガール付き。

 エレベーターのガラス窓からは、店内が見渡せた。



「さっそく文具売り場を見てもらいたい」

「あの、でも……」


 私は裏方の仕事ばかりしていた。商品の発注とか、在庫の管理とかだ。

 だから、いきなり売り場に連れてこられても…………


 って思っていたけど売り場に着くと、その考えは遥か彼方の地平線の向こう側へとぶっ飛んでいった。




 
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