溺愛トレード

 庶民には縁がない高級感ある売り場に、丁寧に大切にディスプレイされているアン・カイエの文具。

 うちの商品の取り得は、機能性使いやすさだけでなく、それを使う人が楽しい気持ちになれるような親しみやすさと可愛いさを兼ねている。

 それを理解してくれているから、重ね置きなんてせずに一つ一つのデザインが見てわかりやすいように置かれている。


 このディスプレイは、フランス支社の本店と全く同じだ。



「どうかな? この売り場を三倍に増やそうと思っているんだけど、君から何かアドバイスがあれば聞きたい」


「……こんな丁寧に扱ってくれているなんて、アドバイスのしようがないです」


 実乃璃が学生時代に使っていたペンケースを手にとる。

 柄は違うけど形は同じもの。当時の私には、とても手の届かない代物だった。

 それをこうして手にして、さらにそれを販売する側になっているとは夢にも思わなかった。


 かつて実乃璃を少しだけ羨ましいと思ったのは、最初で最後、このアン・カイエの文具を使って勉強していたという事だけだ。




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