君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を
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恵美が自殺したというのを、数日前のニュースで知った。
そしてどういう訳か、僕が悪いかのような報道をされていた。 まあ、別にどうでもいいけど。


僕はここ数日、家から一歩も出て居ない。 マスコミが家の前で待ち伏せてる、とかではない。 そもそも住所は未だに知られていない。 嬉しくもあり、少し寂しくもある事実である。

恵美が死んだという事で、はじめは多少衝撃はあったが、それも既に消えた。 今は単に外出が億劫なだけだ。 家でゲームしたり曲を作ったりして、好きなように生きていた。


そんな僕を心配してか、大晦日に鹿島と大山が家に押し掛けてきた。


「餅!」


と鹿島。 挨拶も無しにそれか。

切り餅のパッケージを抱え、寒さからか楽しみからか、頬をホクホクに染めながら、鹿島が玄関に乗り込んでくる。 大山は多少申し訳なさそうな顔で「おじゃまします」と言ったが、鹿島はひたすら「餅焼こう!」ウキウキしてやがる。


「クリスマスも一人で大晦日も一人になる気か? そんな事させねーし! だから今から餅焼いて食うぞ!」

「藤川は実家な。 親父さんが正月の準備でぎっくり腰になったらしいから、手伝いに」


鹿島は非常にうるさい男だし図々しいし、普段から邪魔くさいが、こういう時は居てくれて有り難いと思える。 ――――ついでに大山も。

恵美の件を知っているであろう二人は、多分今日は僕を気遣って訪問してくれ――――


「俊太郎! コーラ買ってきて!」

「自分で行け!」


――――たと思ったが前言撤回。 こいつら(っていうか鹿島)はうざい。


「なあ俊太郎、大丈夫か?」


鹿島の背中を突き飛ばして、乱暴な方法で玄関から中へと招き入れた僕に、大山が遠慮がちに訊いてくる。 「全然平気」答えたが、彼はどうも心配そうだ。


「恵美が自殺しようが何しようが、別に気にしてないし」


そもそも、死んだ事を悲しむほど恵美を愛しては居なかったし。

多分、恵美自身も解っていた。 僕が愛してないことも、むしろ嫌っていたことも。 解っててそれに気付かないフリをして、何とかつなぎ止めようと必死だった。 それほどに僕は恵美から愛されていた。 ……でも僕は嫌いだった。 その感情の食い違いに関しては、恵美に申し訳ないとは思う。
それだけだ。 それ以上は無い。


「ゲームしたい」

「おま……、いつもと同じことして年越すのか? それでいいのか?」

「それでいいのだ」




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