君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を








リビングでコートを脱いだ鹿島の腹に、粒あんのパックがあった。 スウェットの腹の所に挟んであった。 「お汁粉!」


「お前が作れよ。 っていうかそんな所に入れてたもんに触りたくないんだけど」

「キレイなあんこだよ!」

「嘘だね」

「いや、だってこのパンツはおニューだよ?」

「見せるな! っていうか何でブリーフ!?」


真っ白の下着をスウェットの間から見せてくる幼なじみが、異様な変態に見えた。 いや変態だこいつは。


僕はその愛すべき変態から粒あんと餅のパックを受け取り、台所に向かった。









………………………
………………
………





あれから、普通に三人でお汁粉を食べながら紅白歌合戦を見て年を越した。 昼になったら初詣に行こうと約束して解散したのは、確か午前3時の事だ。

僕はそのまま寝ようと思ったが、例の如く目が冴えて眠れそうになかった。


そしてやはり例の如く。


「あけおめ」

「まさか、その歳でお年玉をせびるつもりか?」

「ちげーし。 ガトーショコラとコーラ」

「…………ケーキ野郎め」


父親のカフェに来ていた。

僕がここに来る時はいつも、父親がカウンターに居る。 24時間営業なのに、昼間も父親が居るのかと思ったら、どうやらアルバイトを雇っているそうだ。 まあ、今は関係の無い話だが。


カウンターの椅子に座り、面倒くさそうにコップを取り出す父親にペロリと舌を出して見せた。 「なにそれ気持ち悪い」…………なにそれ酷すぎる。


そして、カウンター端のの席には既に居た先客が一人。


「今のは見なかった事にしますね」


僕と同じく孤独な正月を味わっている(そんな気がする)であろう草野つぐみは、ホットココアの入ったコップを両手で包むようにして持ち上げた。 そして息を吹きかけて茶色の液体を冷まそうと、唇を窄める。


「相変わらず腹立つよね君は」

「お互い様ですよね」


と、彼女は皮肉っぽく返したが、僕が隣の椅子を勧めると素直に従った。


「明けましておめでとうございます」

「うん」

「お年玉は?」

「なんでだよ。 そんなに仲良くもないのに」


僕が言うと、「むう」いじけたような表情で唸る。 眉間にシワが出来たが、醜い様にはならない。



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