合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず


そして一方、山城一騎は、何食わぬ顔で日常を送っていた。


あの朝、わたしが目覚めると、彼の姿はマンションの何処にもなかったのだ。

剥ぎ取られたわたしの服は綺麗に畳まれ、散らかっていた室内もゴミもそこそこに片付けられていて。

極めつけは、外からかけた部屋の鍵がポストに入っていたってこと。


発つ鳥跡を濁さず


彼にとって、あれが一夜限りの情事であることは明白だ。

彼はわたしと交わった痕跡を完璧なまでに消し去ることで、それをわたしに示そうとしたのだ。


そんなこと、言われなくてもわかってるわよ!


胸の内に抱えた、意味知れないモヤモヤは日増しに大きく膨らんだけど。

体勢は明らかにこちらに不利なわけで。

確かにあの夜、山城一騎はわたしに精子提供を申し出た。

それを断りも、拒みもしなかったのはわたし。

酔った勢いとはいえ、わたしは彼を利用しようとしたのだ。

単なる気持ちの勢いで。

後先考えもせず。

だから、大人なわたしは全てを自分の胸の内に仕舞い込み、知らんぷりを決め込んだ。
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