合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず
総務の印刷受付でも、眼鏡をかけた仕事モードの山城は、いつも通りの対応だった。
「木曜までに、五十部製本ですね。
そうですね、水曜午後一でお渡しできると思います。
会社の案内資料も合わせて封筒に入れておきましょうか?」
外部向けのプレゼン資料の印刷依頼には、さり気ない気配りも忘れない。
「あっ、そうして貰えると助かる」
勿論、あの夜のことを咎める気持ちなどわたしには無かったけれど。
こうまで普通に、何事も無かったように振舞われると、もしかしてあれはわたしの願望が見せた夢だった? なんて、自分の記憶が不安になった。
あれはわたしの妄想?
いやいや、確かに抱かれた痕跡はあった。
あんなに感じて、あんなに求めた自分が恥かしくなるほどに。
「しっかりしろ、わたし……」
自分で自分に活を入れて、独り言を呟くなんて末期症状だ。
人肌を求めて眠れない夜をいく晩もやり過ごし、わたしは少し気弱になっていた。
寝不足はこの歳になるとダメージが大きい。
肌にハリが無くなって化粧のノリは悪いし、目の下の隈を隠すのに化粧は厚くなるし。
表情も乏しくなって、能面のような顔になる。
あぁ、不細工だ、どうにかしなくちゃ……
気分転換を求めて、わたしはジムに足を向けた。
汗をかけば、少しはストレスが発散できるかなと、わずかな期待を持って。