【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中



「あらあらっ、お加減はいかがですか?」


そう言いながら、しずしずとした足取りで近づいてくるその方は、
私の傍に近づくと、ゆっくりと膝を折って私の目線にしゃがみ込む。


「えっと、助けて頂いたようで有難うございます。
 自己紹介が遅くなりました。塔矢李玖といいます」

「えぇ、存じています」

「えっ?」

「私は徳力華月。当デパートの経営者の補佐役を務めております。
 先ほど塔矢さんの前に顔を見せたのは、徳力神威。
 私共の一族の当主と言う立場になります」

「こっ、このデパートの経営に携わってる人がどうして私を?」

「人命救助に何も関係ありませんでしょう。
 ですが、塔矢さんを助けたのは私ではありません。

 早城飛翔。この名を聞いて、心当たりはありますか?」



そう言って華月さんと名乗ってくれた女性は、
私に悪戯な笑みを浮かべて微笑む。



はっ早城先生?
なんでこんな時に、早城先生の名前が出てくるのよ。




だけど……さっきの神威君の話し方といい、
早城先生と聞いて、何となく私の中で繋がった。


早城先生は休みの今日、家族で買い物に来てた。
そこで私が倒れてしまって、医療者の本能で仕方なしに助けてくれた。 



そう、自分の中で結論付けて深いため息を吐き出す。



「あらっ、塔矢さん。その溜め息はいけませんわ。
 私は飛翔の従姉妹。そして神威は飛翔の甥っ子にあたります」


ふぇ?


どうしてそんな情報を私に話すの?
私、残念そうな顔しちゃった?



「あっ、そうだったんですね。
 早城先生の従姉妹の方と、甥っ子さんだったんですね」


同じ言葉をリフレインするように繰り返して、
自分自身を落ち着かせる。



ふいにガチャリと何処かで扉が開く音がした。


「まぁ、飛翔が戻ってきたのかもしれませんわね」


そう言うと膝を折って座ったまま会話をしていた華月さんは、
ゆっくりと立ち上がって、先生を出迎えに衝立の傍へと歩いていく。



「お帰りなさい飛翔。
 先ほど、塔矢さんお目覚めになられましてよ」

「あぁ」



何度か聞きなれた声が聞こえて、
ちょっとホッとしてる私を感じてしまうことに驚きを隠せない。

ソファから足をおろして、衣服を正して座りなおす。



「気がついたか」



第一声の言葉の後、私の傍に近づいてきてそのまま無言のまま手首を取る。
驚いて自分の手首をひっこめかけるもののすぐに、バイタル確認なのだと気がついて
そのままなされるままに手首を預ける。


妙な緊張時間が流れて、そのまま先生の手が私の手首から離れた。


「あの……」

「俺が通りかかった時、君は強いストレスからの過呼吸を起こして倒れ込んだ。
 処置してここに運ばせた」

「……はいっ。
 えっと……有難うございます」

「構わない」



うっ……。


お礼をちゃんと伝えたいと思っても、やっぱり早城先生との会話は 
思うように進展しなくて、すぐに挫折してしまう。



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