【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中



「お疲れ様、飛翔」



そう言って近づいてくるのは氷室由貴(ひむろ ゆき)。
俺の学生時代からの親友。


「お疲れ様です」


次々と医局へ戻ってくるスタッフたち。


「早城先生、今日も夜、車流しに行きますけどどうです?」


そうやって俺を誘うのは趣味がお菓子作りと車の若杉知成(わかすぎ ともなり)。


「今日も走るのか?
 俺は今日は無理かな。ガキのお守」

「あぁ、甥子さんですか?」

「まぁな、神威の用事もない時に機会があったら付き合うよ」

「んじゃ、俺はもう終わりなんで史也のところ顔だけ出してあがります。
 お先です」


そう言って若杉が医局を離れた途端、由貴が再び俺の正面に座る。



「おいっ」

「はい?」

「そこに居たら何も出来ないだろ」

「出来ますよ。
 私はただ居るだけ。

 ぐったりと疲れてる飛翔を見るのが最近楽しくて。
 ここに来て、飛翔随分と柔らかくなってきましたよね」


そんなことをしみじみと口にする由貴。



「嵩継さんに絞られました?」

「まぁ、そんなとこ。

 あの人が病室に入るだけで患者の顔が明るくなる。
 なんでそんなことさせられんのかな?」


呟くように吐き出してノーパソのモニターを見つめる。


看護師がリアルタイムで打ち込んだカルテに再度目を通して、
書き洩らしていることを補足したり、新たに追記された内容を把握していく。



「飛翔、今日……少し寄りませんか?
 妃彩(ひめあ)さんがビーフシチューを作って待っててくれるんですよ」


妃彩って言うのは旧姓、春宮妃彩(はるみや ひめあ)。
由貴の奥方さん。


もともとは、俺と由貴の共通の友達、
金城時雨(かねしろしぐれ)の双子の弟である氷雨の彼女だった存在。

氷雨が事件に巻き込まれて他界して以来、由貴が支え思い続けてきた相手。


晴れて両想いになったアイツは現在、由貴が住む金城家にて時雨と三人で同居中。


「神威が総本家に行ってる。
 だから俺も顔出さないと」

「そっか。

 なら妃彩さんに頼んで飛翔のマンションにビーフシチューを
 届けることにしましょう。

 そしたら飛翔も食べたい時に神威君と食べれますよね」


嬉しそうに話す由貴の表情は幸せそのもの。


ノーパソの画面を確認終えた後はシャットダウンをして、
今度は毎日の日課にしている外科的縫合の結紮の練習。



それを何時もの予定分を終えると、
終わるまで付き合ってた由貴と共に医局を後にした。


医局から駐車場へ向かう途中ナース姿の集団がチラチラ。

そいつらは、壁に隠れながら視線だけを俺のほうに、
チラチラと向ける。




「ふふふっ。

 飛翔、今日も居ますねー。
 モテる男は辛いですねー」



なんて口にしながら由貴が楽しんでるのは明らかで。



「あのっ。
 早城先生……これっ……」



近づいてきたかと思えば、
手にした封筒をゆっくりと俺の前に差し出す。

またかよ……。
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