哀しみを越えて
1.こんな私が。
冬に近づく今日、12月。風は肌を刺すように強く吹いていた。
そしてもうすぐこの北の大地にも雪が降ってくる。


そして今日も、私の心は冷たかった。
誰も触れることのできない冷たさ。

昨日も今日も一人。学生時代の学校帰りも狭い道を好んで帰ってた。
私の家には一人ぼっち。親元を離れてから出会いもない。
でも今の私にはそれがお似合いだった。そう思っていた過去。


あの日から、周りにはよく「変わったね・・・」っと言われるようになった。
私は変わりたくて変わったわけじゃない。
あの人に変えられたのだ。

もしもあの日が来なかったら、私たちはまだ一緒にいたかもしれない。
でも、あんなやつが居なかったら、私は明るく生きられたかもしれない。
だからと言って、過去を恨んだわけじゃない。
貴方がいたから、私は変われた。貴方がいたから、視野が変わった。
楽しかったんだ。夏向との恋は。悲しかったんだ。夏向との恋は。
そして一番の驚きは、こんな私が恋を出来たこと。

うまくなんて当然できない。それでよかった。それでいいと言われた。
あんなに惹かれる片想いも初めてだった。

こんな私が。

手と手を取り合う事は潔癖症の私にとっては問題な点だった。
相手は汚い手だったら私の手に菌が移る。
そう思うとすこし嫌な感じがした。

夏向は熱く濃厚に愛し合うことを望んでいた。
私も嫌ではなかった。むしろ、その方がよかった。


夏向は私だけを。私は夏向だけを。


嘘も偽りもないこの恋は私にとっての生きがいだった。
失ったら、私の体も崩れるであろう。そう思った。
すべてを夏向に捧げてもよかった。過去の事はどうでもいい。


ただ、この男との未来が楽しみだった。
< 1 / 6 >

この作品をシェア

pagetop