いつか、きみに、ホットケーキ
10. 変化

誰かと食事を共にする、ということは、話している内容だけではなくて、自分の何かが駄々漏れになっている感じがする。相手にどこまで心を許しているか、相手をどう思っているのか、簡単に言えばそういう尺度が駄々漏れになっているのだ。そんなことを意識しながら仕事仲間と呑んだり食べたりしている訳ではないけれど、改めて考えてみるとそういうもんなのかな、と思う。

だから、ランチを食べながらというのは、距離感も時間も非常に適当な選択だ。菅生さんは賢い人だな、と思う。


菅生さんとお昼ご飯を食べながら、写真の話やそんなことから思い出した色々な話、時には人生観に通ずるような話題まで話していたら、菅生さんはもしかしたら少し誤解を招くくらい率直な人だと思った。思ったこと、考えたことをはっきりと口にする。それは時に人を傷つける事もあるくらい鋭利だったりしそうだ。多分それは、彼女の見た目と使う言葉や話し方とのギャップだったりするのかもしれない。この人から愚直なくらいの真っ直ぐさで何か思いもしないことを言われたりすると、そんなに酷いことだったわけでもないのに、意外すぎて、油断しすぎてて、あっと思う間にグサリと胸に突き刺さるような。でも、湖山はそんなところもいい、と思った。

ゆっくりめのランチを取ってくれた菅生さんと一緒にXX社に戻り、ROMを渡して次の撮影に向かうのに会社に連絡を入れた。

「お疲れ様です」
事務の女の子が出る。
「ども、お疲れ様です。」
「XX社、終わりましたか?」
「ええ。いまちょうど終わったトコ。次に向かいますよ」
「えーとですね・・・。」
紙をめくる音。

「えっと、大沢さんがいま宮森さんの現場に行ってるんですけど、やっぱり間に合わないそうです。それで、湖山さんの撮影に付くの、吉岡くんになるそうです。今向かってるはずです。」
「えぇーーー?またなのー?」
「うーん。みたいですねえ・・・。」
「わかった・・・。」

ここ何回か立て続けに大沢が別の仕事に持っていかれていることがある。湖山が事務仕事の日に大沢が別の撮影の仕事をしていることはこれまでにも何回かはあったけれど、湖山が現場に立っているときに大沢が別の所にいるというのはそう考えてみると殆ど無かった。

XX社を出て駅までの道を歩く。青葉の美しい季節。もうあと1ヶ月もすればTシャツ一枚でも気持ちのよい日があるだろう。そして雨ばかり降る梅雨が来る。この道の途中に小さな神社があって、あの垣根にアジサイが咲く。

春真っ只中のこんな穏やかな午後なのに、湖山は少しイライラしている。

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