いつか、きみに、ホットケーキ
15. マクロビオティック


「よく噛んで食べるのよ。それが大事なの。」
「分かったよ・・・。」

小さな俵型のご飯は、一方は赤っぽく、一方は黄色っぽい。この時季に獲れる山菜なのかなにか小さな葉のついた茎のようなものが和えてあったり、西洋野菜のミニチュアのような野菜、ゴマ豆腐やら、なにやら、小さく、可愛らしく盛り付けられたプレートは明らかに女性向きだ。家庭で使うお箸よりも少し長めの箸でひとつひとつを味わって食べてくれろという聞こえぬ声が聞こえてくるような。

可愛らしい器に入ったスープは味噌汁だ。一口飲んで少しホッとする。

「大沢さんが・・・」
味噌汁の器を慎重にトレーに置きながら菅生さんが言う。


「結婚する事を、あなたに話してくれなかった。」
長い箸を器用に使って俵型のご飯を割り、口に運びながら問う。
「それで、苛々している・・・」

「そう。」
湖山も俵型のご飯を割る。大きめに割ってぱくりと口に入れる。菅生さんに言われたとおりよく噛む。少し入れすぎたみたいだなと思いながら、もぐもぐと噛み続ける。甘い。

「言ってくれなかったから、苛々してるの?」
「うん。」
「結婚することに、苛々してるんじゃなくて?」

湖山はうっかりご飯を飲み込んでしまう。
「は??」

菅生さんは和え物をはさんで口に運びかけ、それをもう一度お皿にもどして湖山を見つめた。

「違うの?」

「大沢くんが結婚するから苛々してるんじゃないのかって?」

「そうよ、違うの?」

「何言ってるんだよ。そうじゃないよ、もちろん。俺が苛々してるのは、大沢がどうしてそんな大事な事を俺に話してくれなかったのかってことだよ。なんで大沢くんが結婚するから俺が苛々するの?結婚して欲しくなかったのにってこと?そんなことない、結婚したらって言った事もあったくらいだよ。・・・なんで言ってくれなかったんだろう、そこだよ。」

「言いたくなかったからに決まってるじゃない。」
菅生さんは和え物を噛む。

「何で言いたくなかったの?」
菅生さんに訊いても仕方がないのについ訊いてしまう。

菅生さんは和え物を噛み続けている。湖山も和え物に手を付けてみる。
ようやく噛み終わった菅生さんはなんの答えだか忘れたくらいのタイミングで言う。

「知らない。」

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