真夜中に口笛が聞こえる
◇第七章 新たな家族
 それは、休日の朝の出来事だった。

「はじめまして。今度ソコに引っ越してきた寺嶋です。ご挨拶に参りました」

 スピーカー越しのハスキーな女性の声。

 美咲がインターフォンのボタンを押すと、背の低い女が、白黒画像で映っていた。

 女はソコを指差していたが、画面の枠の外は、当然確認できない。

 リビングで新聞を広げて寛いでいた信一郎と、テーブルで学校の宿題をしていた美佳は、インターフォンを切ったばかりの美咲に追い立てられ、渋々、玄関に出てきた。

 揃ったところで、美咲の手によってドアが開かれる。太陽の光が入り、その中に、寺嶋時子がいた。

「すみません。突然やって来まして。私、寺嶋時子といいます」

 信一郎は時子の茶髪と口紅の真っ赤な様を見て、派手だな、と思った。
 花柄のブラウスの胸ボタンを上から二つ外し、ジーンズの腰に手を当てた様子は、無意識にポーズをとっているかのようでもあった。

 美咲も白黒画像では分からなかったらしく、一瞬固まってしまったのだが、気付かれないようにさりげなく、言葉を返した。

「どうも、ご丁寧に。高崎です。夫の信一郎に娘の美佳、そして美咲です」


 傍らに、丸坊主の小さな男の子がいた。信一郎と美咲、美佳の三人が、ほぼ同時に目を向けると、男の子は顔を伏せて母親にしがみついた。
 白地にブルーの縦ストライプの服を着て、ポケットの多いオレンジ色のズボンを、ぶかぶかに履いていた。

「おいくつなんですか?」

「三才なんです。勇馬っていいます」

「まあ、かわいい」

 美咲と時子が自分のことについて言葉を交わしていると分かると、勇馬は更に時子の後ろに回り込んだ。
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