真夜中に口笛が聞こえる
◇第九章 真夜中に口笛が聞こえる
 ピンポーン。

 ちょうど正午前だった。誰もいない家の中で、美咲は居間のクッションで寛いでいた。のんびりとテレビを見ていると、玄関の呼び鈴が鳴る。

 立ち上がり、インターフォンのカメラで確認する。制服を着た中年の警察官が鼻の下を伸ばし、カメラを覗いている。間の抜けたような表情が滑稽だったので、美咲はクスリと笑った。

「警察です。この地区の派出所の宮坂といいます」

 カメラに向かって警察手帳を見せたのは良いが、郵便物のお届けにでも来たような、それでいてまるで商売人のような感じだった。

「はい」

 美咲は玄関を開けて、招き入れる。先程カメラで見たよりも年老いて、痩せっぽちの巡査だった。

 帽子を取り、首筋を手ぬぐいで拭う。

「まだまだ暑いですなあ。ところで、今日はこの辺の巡回をやっとるんですよ。何か変わったことはありませんか?」

「この辺りを、お巡りさんが巡回して下さるの?」

 美咲は目と口を大きく開けて、宮坂の顔からくすんだ色の制服まで、まじまじと見つめた。

「ええ、そのつもりです。この地区も土地が造成されて、住宅が建ち、続々と人が増えていくようですしね。しかしそうは言っても、今はまだお宅だけみたいですね」

 地の関西弁に、努めて標準語を押し込んでいるような、そんな口調だった。

「そうなんです」

「気を付けて下さいね。なんでも台風が近付いているようですし、それに……」

「それに?」

「いや、ね。近頃は失踪やらなんかの情報も寄せられてましてね。勿論、この地区にまだ家がありませんから、周りの地区に住んでいる人なんですけど」

「失踪事件ですか?」

「事件かどうかは何とも言えません。これなんですけどね。ええ、これです」

 宮坂はブツブツ言いながら、ポケットからきれいに折り畳んだチラシを二枚取り出すと、広げて見せた。

 どちらも、スペースの半分を写真で占めたチラシだった。

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