二度目の片思い
「……ご、ごめんなさい……」



なんとも居たたまれない気分になった彩音は、和晴にしがみつくような形で呟いた。

そんな彼女に、ふっと、彼が笑みを浮かべる。



「なんで謝るの? ……言い方は、良くないかもしれないけど……俺的には、ラッキーだった。俺もシラフじゃなかったから、ああいう思いきった行動、とれたのかもしれないし」

「越田くん……」

「俺今、ほんとにうれしいんだよ。ずっと想い続けてた藤咲と、こうなることが、できて」



でも、それでも。やっぱり俺は、藤咲の“初めて”が欲しかったな。

そう呟いて彼は、彩音の髪に顔を埋めた。

自分が、もうああいうことを経験してたことを気付かれていたことに、一瞬チクリと胸が痛んで──けれども彼女は、彼の耳元でささやく。



「……でも、私は──本当にすきな人とは、初めてだったよ?」

「……ッ、」



吐息のようなそれに、甘い色気を感じて。和晴はぐっと息をつまらせた。

そして彼もまた、彼女の耳元に唇を寄せる。



「……じゃあ、俺も。そういうことなら、藤咲が“初めて”の相手に、なるのかな」



そう言って彼は、いとおしいものを見るような表情で、彼女の前髪をすいた。

どきん、と、また彼女の胸が高鳴る。



「本当はこの言葉、5年前に言いたかったな。……すきです。俺と、付き合ってください」

「──ッ、」



その、やさしい眼差しに。

胸が一杯で、堪らなくなって。彩音もまた、彼の首にぎゅっと抱きつく。



「……っはい。よろしく、お願いします」

「ふふ。こちらこそ、よろしくお願いします」



手を伸ばせば、抱きしめ返してくれる人がいる。

それはどんなに心強くて、しあわせなことだろう。

意気地なしの自分が、遠回りして、ようやくたどり着いた。

このぬくもりを、もう二度と、離したくない。
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