ピエモンテの風に抱かれて
『おかしいわねぇ。一体どこに消えたのかしら。あなた、ちゃんと男子ロッカー探したの?』
『探したに決まってるだろ。それにあの子の車、まだあったよな。だからまだ劇場内にいるはずだ』
例のバレリーナとオペラ歌手の凸凹コンビが、執拗に龍を探し廻っている。
『ねえ、あなたも聞いたんでしょ? あの噂』
『ああ。リュウがイタリアに居られるのも時間の問題ってやつだろ』
『そうなのよ。真相を確かめないと。あら…、何か聴こえるわよ?』
舞台裏まで響いてきた歌声に、二人は足を止めた。
『誰だ? 素晴らしい声をしてるぞ! …ん? まさか…』
『そのまさかよ。やっと見つけたわ!』
龍を追って凄い形相で迫る二人。捕まった後のことを考えると、もう逃げるしかない。
「やば、もう一回逃げるぞ! ジュリは先に車を外に回して。俺が二人を巻くから」
「了解!」
『だから何言ってるのよ? いやだわ、日本語って暗号みたいで!』
その一ヶ月後 −。
トリノにほど近い大都市ミラノのとある劇場で、一際高い歓声が轟いた。
『さあ、お待たせ致しました! イタリア演劇界の将来を担う、今年の新人賞は………』