片恋綴
気持ちの行方を教えて欲しい
髪を触る手が好きだった。

優しい手付きで、滑らかに触り、綺麗に整えてくれる。

「まめにトリートメント来てくれるから、いつも綺麗だよね」

永久さんがくすくすと笑いをながら言ってくれた。

この美容室はものすごくお洒落で、トリートメントだけでも何千円とする。それでも私は月に二回、トリートメントに通って、髪が伸びたら少しだけ切る、というのをずっと繰り返している。

本屋のアルバイトだけでは通うのは金銭的に難しく、兄に知り合いのところで短期のアルバイト募集があるときはそこでも働かせてもらっているのだ。

そこまでして通いたい理由は今、私の髪を丹念にブローしてくれる彼にある。

「はい、出来上がり」

肩を少し過ぎた辺りで綺麗に内巻きになった毛先から手を離し、永久さんが言った。

何処か中性的で端整な顔をした彼は女性にすごく人気がある。

この美容室に訪れる客の大半は彼目当てで、彼を指名しているほどだ。


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