蕾は未だに咲かないⅠ
本当に偶然だ。
こんな時に偶然を引き起こしてしまうなんて、どんだけ悪運が強いのだろう。運命だとか信じたくもない。
「――…へえ。」
ただ、それだけ呟いて。
冷たく、孤高の空気を纏った綺麗な彼は口角を上げた。
「(しまっ、た…。)」
雨が降り続ける。濡れた地面に立っているのかどうかさえ、感じる事が出来ない。
――あたしは、別邸へ向かっていた鶴来悠貴と鉢合わせしてしまった。
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