夜香花
「いたたたた……」

 刀を持った手を押さえて、深成が顔をしかめる。
 その隙を突き、羽月が刀を振るって襲いかかった。

「にゃっにゃっ」

 深成が慌てて、持った刀を振り回し、羽月の攻撃を捌く。
 が、刀が重いらしく、剣先はふらふらと定まらない。

 真砂の刀なのだ。
 ただでさえ、刀は軽いものではない。
 まだ身体の出来ていないような幼い深成には、そうそう使いこなせる代物ではないのだ。

 羽月がまた、片手を懐に入れた。
 それを見た深成は、持っていた刀を地面に突き立てた。
 それを支えに、地を蹴る。

 深成の足先を、羽月の苦無が、ぶん、と唸りを上げて通り過ぎた。
 同時に一瞬前まで深成のいた場所を、数本の苦無が切り裂いていく。

 羽月の目が見開かれる。
 一瞬前まで目の前にいた小娘が消えたのだ。

「……えっ」

 焦って周りを見渡すが、深成の姿はない。
 真砂は、ちらりと視線を上げた。
 さして大きくもなく、立派な造りでもないが、この家には天井付近に梁が通っている。
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