夜香花
 真砂は皆の前に出ると、無言のまま、地面に絵図を描いていった。
 今日実際に目で見て確かめた、件(くだん)の舘の外観である。

「……見る限りでは、さして労せず入り込めそうな舘ですな」

「周りに堀もない。えらく簡単な仕事じゃないですか」

 地面に描かれた図を見、おのおの意見を述べる。
 真砂は特に作戦というものを立てない。
 情報を共有するだけだ。

「まして舘には、女しかおらぬというからな」

 清五郎が付け加えた情報に、皆拍子抜けする。

「そこまで我らをなめておるのか」

「そこまで愚弄する気なら、舘内の人間皆殺しにして、依頼主に首を届けてやろうぞ」

 若者中心に色めき立つ。
 真砂も若いが、終始無表情だ。

「頭領。このような仕事、とっとと終えてしまいましょう。わざわざ物見を立てるほどのこともありますまい」

 一人が真砂に詰め寄る。
 勢い込んで言ったものの、真砂の目が彼を捉えた瞬間、びくりと身を引く。

「何の策もないとも思えん。室の暗殺のほかに、何か別の目的があるのかもしれん」

 自分で言いながら、なるほど、目的は別にあるのかもな、と、真砂は考えた。
 皆、しんと静まり返り、あらゆる可能性を考える。
 真砂は一度だけ皆を見渡し、口を開いた。

「ま、何もないのなら、それに越したことはない。千代の報告があれば、もうちょっと詳しいことがわかるだろう」

 そう言い置いて、真砂は座を立った。
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