夜香花
第十一章
 日が沈み、大分暗くなった里の中を、深成がぶらぶら歩いていた。
 真砂を捜すというのは口実なので、真剣に捜す気もない。
 とにかく目の前の誘惑から逃げるべく、散歩のように里を歩いた。

 といっても、あまり目立ちたくはない。
 なるべく茂みの中を、息を殺してそろそろと歩いていく。

 指令のない乱破の里は静かなものだ。
 単なる山里と変わりない。

「あ~あ。あれが食べられないとなると、また何か食材を捜さなきゃ」

 ぼそ、と呟き、深成はちょっと深くなった茂みに足を踏み入れた。
 そのとき。

「……んっ……はぁ」

 前方から、密やかな息づかいが聞こえた。

「?」

 深成は興味を覚え、さらに息を殺して、そろりと声のしたほうへと進んだ。
 大きな木の前に、二つの影が認められた。

 バレないぎりぎりまで近づいて、茂みの間から覗き込んだ深成は、ぎょっとした。
 木に掴まって、尻を突き出しているのは千代だ。
 その千代に後ろから覆い被さるようにしている男は……?

---だ、誰だ? 清五郎とかいう人じゃない……---

 こちらに背を向けている男の背中に、真砂と同じ印がある。
 ということは、この里の男だ。
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