夜香花
 つまり、深成が真砂といたがるのは、深成が真砂を好いているからだと思っているのだ。
 真砂は里の娘の憧れ。
 もちろん捨吉ら、年少の者からしても、そうである。
 深成も例に漏れず、真砂の虜なのだと解釈している。

 だが。

「歳なんか関係ないよっ。わらわがここにいるのは、真砂がここにいるからなんだから」

 深成は真砂を殺すために、この里までやって来たので、的(まと)である真砂から離れたら意味がない、と言いたいのだが、この言い方では違うようにも聞こえる。
 捨吉は、にやにやしながら、深成の頭をぽんと叩いた。

「わかってるって。でもなぁ、何せ頭領は、里の者皆の憧れだぜ。頭領を独り占めにしたいなら、頭領がそう思えるだけのいい女になってから言わなきゃな」

「?? 何言ってんの、あんた」

 さすがに深成にも、話が噛み合っていないことがわかったらしい。
 怪訝な表情で、捨吉を見上げる。

「いいってことよ。ところで頭領」

 眉を顰める深成のことなどお構いなしに、捨吉は真砂を見た。

「頭領は、どうするんで?」

「俺は伏見のほうを当たる」

「じゃあ、わらわも」

 すかさず挙手する深成に、真砂はやはり渋い顔を向ける。

「お前が来たところで、役に立たん」

「何でよっ」

「お前は爺から稲荷山に行くと聞いただけで、一緒に行ったわけではあるまい」

 うぐぐ、と黙る深成に向かい、真砂はしっしっと手を振った。

「わかったら、大人しくそいつと一緒に行くんだな」
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