夜香花
第二十章
 城下から帰ってきてから、何となく真砂がよそよそしい。
 今までも、特に仲良しだったわけではないし、よく考えてみれば、別段態度に変化はないのだ。

 だが肌で感じる空気が、微妙に変わったというのだろうか。
 何かが違う、と感じるのだ。

 今日もそれを感じ、とうとう深成は、すっくと立ち上がると、いつもの定位置で刀の手入れをする真砂の前に移動し、すとん、と目の前に座った。

「ねぇ。どうしたっていうのさ」

 真砂が、ちらりと深成を見る。
 が、すぐに視線は刃に戻って、手入れの継続に入ってしまう。

「どうしたって聞いてんの! 無視してんじゃないよ」

 ばんばんと遠慮なく真砂の膝頭を叩く。
 やっと真砂が、刀を下ろして深成を見た。

 が。

「どうもせん」

 一言で打ち切られてしまう。
 深成は一瞬思いきり唇をへの字に曲げると、また真砂の膝を、ばし、と叩いた。

「嘘つくんじゃないよっ! わらわがあんたの変化に気づかないとでも思ってんのっ」

 まるで恋人のような物言いだが、それ以外に上手く言い表せない。
 どこがどう、と聞かれても、わからないのだが。

「俺は別に変わってない」

 さらっと言い、真砂は再び刀を持ち上げた。
 だがその手を、深成がぐい、と押さえつける。
< 280 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop