夜香花
 深成は瞬間的に腰を落とし、先程投げた苦無を取って投げつけた。
 同時に踏み込む。

 真砂は飛んできた苦無を受け止めつつ、少しだけ後退した。
 低い位置から深成は懐剣を斜め上に振るう。

 その深成の肩に、鋭い痛みが走った。
 真砂が受けた苦無を、そのまま突き刺したのだ。

 あまりの痛みに息が止まったが、構わず深成は、真砂の左手---刀に突っ込んだ。
 刀を抜かれたら、ますます勝ち目はない。
 先に刀を飛ばしてしまおうという魂胆だったが、片手とはいえ、鍛えられた成人男子の握力と、さらに肩に受けた傷の痛みに阻まれ、がきん、という金属音で、深成の懐剣は止まった。

 衝撃に、腕が痺れる。
 歯を食いしばって絶えていると、いきなり目の前の刀が一瞬遠のき、次の瞬間には深成に迫る。
 あっという間に深成は、反対側の壁に激突した。

「……っうっつぅ……」

 痛みに悶えつつ、肩に手を伸ばして、突き刺さった苦無を引き抜く。
 そう深くは刺さっていなかったようで、血が噴き出すことはなかったが、痛いことには変わりない。

 息をつき、起き上がろうと手をついた途端、視界が翳った。
 やば、と思ったときには、再び肩に激痛。
 声も出ないほどだ。

 床に這いつくばった深成の視界の端に映るのは、真砂の足先。
 真砂が、深成の肩の傷を踏みつけているのだ。

 ずきんずきんと鼓動に合わせて痛む傷口から流れ出た血が、深成の頬を濡らす。
 痛みから逃避しようとぼんやりする頭で、深成は『とりあえず、苦無を抜いておいて良かった』と思った。
 突き刺さったまま、苦無の上から踏まれていたら、苦無は肩に食い込んで、今頃は肩を貫通し、床に突き刺さっていただろう。
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