夜香花
第二十四章
 日が沈んで、捨吉が持ってきた夕餉を食べているときに、真砂が帰ってきた。
 捨吉が、ささっと居住まいを正し、深々と頭を下げる。
 真砂はそれをちらりと見ただけで、特に深成を見ることもなく、いつもの定位置にどかりと座った。

 囲炉裏に火を熾し、捕ってきたらしい魚に通した細い枝を、灰に突き刺す。
 ぱちぱちと魚が火に炙られ、やがて香ばしい匂いが部屋に満ちた。

「……じゃあ頭領。俺はこれで」

 深成が食べ終わったのを見計らい、捨吉が器をまとめて立ち上がろうとする。
 慌てて深成はまた、捨吉の袖を掴んだ。

「ん? 何? 足りない?」

「そ、そうじゃなくて。帰っちゃうの?」

 真砂と二人にされるのは御免被る、と思い、がっちりと捨吉の袖を掴む深成だったが、真砂と二人なのは、何も今に始まったことではない。
 むしろ二人なのが当たり前だった。
 なのに何故か、深成は捨吉に去られるのは困る、と焦った。

「そりゃ……。頭領も帰ってきたし、寂しくはないだろ? そんだけ回復したんだったら、もう俺の看病も必要ないだろうし」

 当たり前のように言って、捨吉は手荒く深成の頭を撫でる。
 そして、ちょい、と部屋の奥を指差した。
 深成が顔を向けると、そこには単が一枚、かかっている。

「一応お前の単、血みどろだったし、洗っておいたから。着替えておきなよね」

「あれ、じゃあこの単は……」

 疑問に思い、深成は今己の身体を包んでいる単に目を落とした。
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