夜香花
「~~~っ!!」

 一瞬の出来事に、深成の目が大きく見開かれた。
 息を呑み、でも騒げば落とされそうで、深成は固まったまま、ぶらりと崖の上にぶら下がった。
 そろそろと、目だけを動かして真砂を見る。

「やった。さすが頭領。とっとと落としてしまいましょう」

 羽月はいまだに深成は真砂をつけ狙う刺客だと思っているらしい。
 弾んだ声を上げた。

 いい加減に里の者も深成の存在に気づいているが、皆ここまで敵愾心を露わにはしない。
 頭領である真砂が、全く気にしていないということが大きいが、深成の幼さもあるのだろう。

 はっきり言って深成の態度は、里の誰より子供っぽいのだ。
 刺客らしさはおろか、乱破らしさもない。
 故に、誰も特に気にしていないのだ。

 だが羽月は、以前深成に負けた悔しさがあるのだろう。
 歳もおそらく、ほぼ同じだ。

 実際には深成は羽月から逃げただけだが、取り逃がした、というだけでも失敗は失敗だ。
 しかも真砂の目の前で、である。
 恥をかかされた、と思い込んでいるようだ。

「本気で俺を殺す気があるなら、突き落とせば良いものを。一番簡単な方法じゃないか」

 さっきは真砂を殺す、またとない機会だった。
 力のない深成でも、とん、と一押しすれば、いかな真砂だって落ちただろう。
 崖の淵ぎりぎりから、さらに身を乗り出していたのだ。
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