夜香花
「皆の頭領を、あんなにしちゃって。千代の言うとおり、真砂の怪我は、わらわのせいだもん。頭領をあんな目に遭わせて、このままここにいていいの……?」

 じわ、と涙を浮かべて言う深成に、捨吉は、あまり深く考えずに、ぽんと肩を叩く。

「といっても、他に行くところもないだろ? 大丈夫だよ。千代姐さんはどっちかというと、頭領がお前を大事にするのが許せないんだ。嫉妬だよ」

「んでもさ。この戦だって、わらわのせいだよね? わらわがいたら、もしかしてまた戦が起こる……?」

 結局は、皆そこに考えが行ってしまうのだ。
 どちらかというと楽観的な捨吉も、そういえば、と口をつぐんだ。

「でもさ、今回は、お前を始末しにきた奴らだろ? そいつらからしたら、この戦でお前は死んだと思ってもおかしくないよ。そしたらそっち側の敵は、もう来ないんじゃないかな」

「どういうこと?」

「だからさ、初めに来た奴は、お前を『迎えに来た』わけだよ。殺そうとしにきた奴らでないのが、先に来てたわけじゃん?わざわざ探し求めてる姫君だ。そんな簡単に、諦めないと思うよ。迎えの忍びが帰って来ない時点で、新たな手は打つだろう。死体から里を突き止めて、そこにある敵側の死体から姫君を捜すだろう。きっと次来る奴は、お前を知ってる奴じゃないかな」

「だったらなお、ヤバくない?」

 不安げに見上げる深成に、捨吉は、軽く首を振る。

「どうかな。真田の殿様は、今は幽閉の身だそうだし、そう派手な動きはしたくないんじゃないかな。下手に子を捜してるのとかがバレたら、いらぬ邪推をされるかもだし。何か考えるにしても、絶対派手には動かないさ。負けても切腹を言い渡されないほどの名将だよ?」
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