夜香花
「於市様の居場所を探っていた者が殺されたことで、我らは肝を冷やしたものですが、ご無事で何より。情報を持ち帰った者は、そのことを伝えた後、息を引き取りましたが、そのお陰でやっと、於市様の居場所を掴むことが出来ました。殿もお方様も、大層喜んでおりますよ」

「父上が?」

 深成の瞳が揺れる。

「父上って、大谷の殿様のことか? いや、お前は真田の姫君だって……。ということは」

 事の急展開に、捨吉は必死で脳みそを動かす。
 以前に深成と話していたときに出てきた『父上』は、湯浅五助の関係からして、てっきり大谷氏のことだと思っていた。

 だが、そうではなかった。
 湯浅五助は大谷の家臣だが、大谷の娘が嫁いだ真田氏のことにも詳しいだろう。

「でもお前、父上のことなんて覚えてないんだろ?」

 爺---湯浅五助から死んだと聞かされて、五助から聞く話でしか知らない父だと言っていた。
 深成は、曖昧に頷いた。

「うん……ほとんど覚えてないよ。でもそういえば、どっかのお屋敷で……六郎とかと遊んで……たまに、誰かが抱き上げてくれたの」

 そういうことが、あったような、なかったような。
 男と話して、そういえばそんなこともあったなぁ、という程度でしか覚えていない。
 それが大谷の殿様だか、真田の殿様だかなど、幼い深成にはわからない。

「殿も皆も、待っていますよ」

 再度、男が深成を促す。
 やっと状況が呑み込めたようで、深成は男と捨吉を交互に見た。

「六郎は、わらわをあのお屋敷に連れ帰るために来たの?」
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