夜香花
第四十一章
「捨吉。お前は先に行って、清五郎と落ち合え。こいつを連れてたら、思うようには進めんかもしれんしな。先に里に帰っておけ」

 真砂の肩の上で、うつらうつらしていた深成は、ふと聞こえた声に目を開けた。
 どれぐらい進んだのか、周りは鬱蒼とした木々が生い茂っている。

「わかりました。閨を整えておきますよ」

 意味ありげな笑みを残し、捨吉は駆け出していった。
 真砂はぶらぶらと歩き出す。
 深成は少し、身を捩った。

「起きたのか」

 肩に担ぎ上げられているので、顔は見えない。
 深成は上体を持ち上げるように、首を捻った。

「真砂、わらわ、歩くよ。これぐらいの速さなら、わらわもついて行けるから。重いでしょ」

 屋敷を離れて、大分経っているのは、僅かに辺りが見えていることでもわかる。
 宴が跳ねたのは夜半頃。
 相当な時間、真砂はこの状態で歩いていることになる。

「重くはないがな……。お前がしんどいか」

 ぼそ、と呟き、真砂は少し腰を落として、深成を降ろした。

 以前に担ぎ上げられたときは、いきなり落とされた。
 だが今は、しっかりと支えて降ろされた。

 その違いを思うと少し心がざわつき、深成は真砂の顔を見ないまま俯いた。
 真砂はそのまま、深成の手を取って歩き出す。
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