夜香花
「……これか?」

 言ってしまってから、どうしたもんかと黙り込んでいた深成の耳に、低い声が聞こえた。
 視線を上げると、真砂は繋いでいた手を離して、懐から小さな袋を取り出した。

「お前が落としたのを、捨吉が気付いて拾った。相変わらず、お前は良い度胸だよなぁ。よく人の肩の上で眠れるもんだ」

 少し呆れたように言い、真砂は深成に袋を渡した。

「だ、だって。一応里にいたときよりは、ちゃんとした格好だし。帯があれば、そんな痛くもないし」

 袋について、特に突っ込まれなかったので、早々に話題を変えようとした深成だったが、真砂は再び深成の手を取ると、また歩き出しながら口を開いた。

「その袋、苦無袋だな。……あのときのか」

 びくぅっと、激しく動揺してしまったので、多分繋いだ手から、真砂にも伝わってしまっただろう。
 だが真砂は、前を向いたまま、何も言わなかった。

 しばらく無言で歩き、ちらりと真砂の後ろ姿を見た深成は、戻ってきた袋を、きゅ、と握り締めた。

「……これは……宝物だから……」

 ぽつりと呟く。
 答えになっていないが、真砂はやはり何も言わず、だが深成の手を握っている己の手に、ぎゅ、と力を入れた。
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