夜香花
 家に帰ると、清五郎が深成の前に屈み込んでいた。
 真砂に気づき、ひょいと振り向く。

「真砂。こいつ、忍びではないのではないか?」

 清五郎の向こう側の深成は、着物の帯が解かれ、合わせが全開になっている。

「お前、幼女趣味だったのか」

 真砂は特に気にもせず、文箱を開いて紙を出すと、手早く何かを書き付けながら言った。

「こんなガキに、欲情するかよ。そもそも真砂の家で、そんなことはせんよ」

 掴んでいた深成の左手を離し、清五郎は真砂に向き直った。
 ささっと深成は、乱れた着物の合わせを掴む。

「身体には、何の印もないようだぜ」

「そうかい」

 興味なさげに答え、真砂は口笛を吹いて呼んだ鳥に、書き付けた紙を結びつける。

「矢次郎への文か?」

「ああ。城下は戦の前の静けさだな。矢次郎も、呑気に店など開いてられないだろう。ねぐらに引っ込んでるかもな」
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