夜香花
 依頼主との連絡係が主な矢次郎は、外部の人間との接触が多い。
 そのため、真砂の党の乱破でありながら、この里には住んでいない。
 場所すら知らないのだ。

 それは真砂たちも同じこと。
 お互い、拠点は明かさない。
 依頼を持ってくるときも途中まで。
 決まった場所からは、狼煙を上げるか連絡鳥を使うか。

「……じゃ、俺はこれで。ああ、千代がやきもきして訪ねてきたぜ」

 ひらひらと手を振って、清五郎が出て行く。

 そういえば、すでに日は傾いている。
 何もないときは、皆自然に里の中央の広場に集まってくる。
 そこで火を囲み、酒を飲み交わしつつ情報を分け合う。

 真砂はちらりと深成を見た。
 昨日とは打って変わって、深成は元気なく、くたりとしている。

 昨日から、丸一日何も口にしていない。
 戦を、息を潜めてやり過ごしたであろうから、もしかしたら随分何も食ってないのかもしれない。

---別に死んだって構わんけどな。けど、もうちょっと知りたいことはある---

 そう思い、家を出しな、真砂は吊してあった芋を、ぽい、と深成の顔の前に放った。
 深成は顔を動かして、目の前に転がった芋を見た。

「腹が減ったんなら、それでも食ってるんだな」

 芋と言っても、干し芋などではない。
 掘り起こしたままの、生芋だ。
 依然右手は縄に括られている。
 深成の目から、ぽろぽろと涙が落ちた。

「全く動けないわけでもあるまい。頭を使うんだな」

 そう言い捨て、真砂は家を出た。
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